大判例

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福岡高等裁判所 昭和26年(ネ)243号 判決

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、という判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出認否は、控訴代理人において当審証人小島巖の訊問を求めた外、原判決に示すところと同一であるから、ここにこれを引用する。

三、理  由

控訴人が、被控訴人の昭和二十二年中における当時の地方税法第六十三条第二項第八号所定の請負業による第一種事業所得に対し、昭和二十三年十月十五日附を以て事業税金二千八百十二円を賦課し、同月十七日その徴税令書を被控訴人に交付したこと、被控訴人がこれを不当として同年十一月十七日控訴人に対し異議の申立をしたところ、控訴人が昭和二十四年一月十三日異議を棄却する旨の決定をしたこと及び被控訴人が十数年来大工職をしていることは当事者間に争いがない。控訴人の主張によると、右事業税は被控訴人の大工請負業による所得に対して賦課したというのであつて、被控訴人が昭和二十二年中大工請負業をしたか否かゞ本件の争点である。

控訴人は、大工は当然請負業者であつて雇傭労務者ではないかのように主張するけれども、それが果して請負業者であるか雇傭労務者であるかは具体的事実に即して判断すべき問題で、大工の業態を一概に請負業者だと論ずることはできない。凡そ請負の場合は、大工が一定の仕事を完成すること自体を目的とし、その仕事の完成に対して報酬が支払われるのであつて、個々の労務を如何に役立てて仕事を完成するかは請負人たる大工の責任に属し、たとい労務を提供しても所期の結果たる仕事の完成をみないときは、註文者は報酬を支払うことを要しない。これに反して雇傭の場合は、大工が一定の労務を提供すること自体を目的とし、その労務の提供に対して報酬が支払われるのであつて、その労務を仕事の完成に如何に役立てるかは使用者自身の責任に属し、たといその労務によつて所期の結果を得なくても、使用者は報酬の支払を免れないのである。両者区別の要点は以上に尽きるわけであつて、賃金、代金、日給、出来高払等の報酬の名称又は形態や、材料の提供者及び指揮監督関係の如何は両者を区別する絶対的標準ではない。しかし、賃金及び日給は通常雇傭の報酬として用いられ、大工が材料を提供することは請負の場合に多くみられることで雇傭の場合はむしろ少ない。又請負にあつては請負人は通常註文者の指揮監督を受けず、雇傭の場合は通常労務者は使用者の指揮監督を受けるけれども、小規模で単純な工事や月並な工事については雇傭の場合でも使用者の指揮監督を要しないことが多いのみならず、むしろかような工事は雇傭によることが少くない。

以上の観点から本件証拠を検討するに、原審証人半田友次郎、同牟田重則、同池田巖の各証言及び原審における被控訴本人訊問の結果を綜合すると、被控訴人は昭和二十二年中において、久留米市下尾笠峰蔵方の家屋(約二十二、三坪)建築工事に約二個月間、三井郡山本村牟田重則方の解崩家屋(約十一坪)建換工事に約二十日間、同村池田巖方の古家屋(約十九坪)移築工事に約三十日間従事したが、右建築工事は他人の設計によるもので、以上いづれも比較的小規模の月並な工事であつて材料は工事主が提供し、工事の完成に対して金幾らという報酬の取決めではなく、一日金八十円乃至百円の割合で手間賃の支給を受け、他の同職者とともに工事に従事した場合は各別に計算して支給されたこと及び以上の外にも同年中各所で大工仕事に従事したが、それは棚作その他些細な雑工事で、これ亦材料は工事主が提供し前同様の手間賃の支給を受けた事実が認められる。従つてこれらの工事は請負としてなされたものではなく、被控訴人は雇傭労務者として賃金労務に服したに過ぎないと認めるのが相当である。もつともその工事による所得に対し所得税の源泉徴収を受けなかつたことは被控訴人の自認するところであるが、この一事によつて雇傭による賃金労務でないと断ずるわけにはいかない。成立に争いのない乙第一号証及び原審証人水崎義憲の証言中以上の認定に反する部分はたやすく措信することができない。ことに乙第一号証中の池田寛蔵方工事は昭和二十二年中ではなく昭和二十三年五月頃のものであることは原審証人池田寛蔵の証言によつて明らかであつて、控訴人提出援用の爾余の証拠によるも被控訴人が昭和二十二年中大工請負業をなした事実を認むるに足りない。

さすれば、控訴人のなした本件事業税賦課処分は違法であつて、その処分の取消を求める被控訴人の本訴請求は正当であるから、これを認容した原判決は相当である。

よつて本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小野謙次郎 竹下利之右衛門 中園原一)

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